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目次
はじめに
心と身体の繋がりやお互いが与え合う影響は、近年注目されるようになり「心とは一体何物で、どこにあるのか」という命題は、21世紀の研究課題の一つと言われています。
オステオパシー技術の一つである内蔵調整(オステオパシーでは、内臓マニピュレーションと呼びます)の創始者ジャン・ピエール・バラルは、患者さんの内臓の状態とその方の感情を観察・研究し、感情記憶が内臓とその周りの筋膜に蓄積されることを説いています。私の臨床経験上でも、過去に抱いていた感情や現在抱えている思いが内臓の周りの筋膜に蓄積され、症状を引き起こす原因になっていると感じられることが度々あります。
内臓と蓄積される感情の一例
- 肝臓・胆のう=怒り
- 肺・大腸=悲しみ
- 心臓=不安
- 腎臓・膀胱=恐れ
- 膵臓=生存に関わる恐怖
感情が蓄積された内臓は、内臓の周りにある筋膜に歪みや硬さを作り、筋膜を介して背骨などの骨・関節に影響を及ぼし、筋肉の異常な緊張や関節痛を引き起こすことがあります。臨床上よく見られるパターンとして、肝臓の問題は右の肩こり(右僧帽筋の緊張)、心臓の問題は左の肩こり(左僧帽筋の緊張)、腎臓の問題は腰痛や膝の痛みの原因となっている事があります。
内臓調整(内臓マニピュレーション)
オステオパシーの施術では、内臓自体に働きかけるというよりも、主には内臓の周りを覆う筋膜の状態を整え、内臓が他の器官(例えば周囲の内臓や背骨、脳)と協調して機能できるように調整していきます。興味深い事ですが、内臓の周りの膜組織が調整されていくのと共に、過去に蓄積された感情が一緒に解放されることがあります。
反対に、日常的に精神的なストレスがあり、何かしら負の感情を抱いているなら、その感情が筋膜の歪みや固着を作り続けます。心が体に与える影響を無視する事はできず、それが強い感情ならば、オステオパシーでの施術での改善が難航する場合があります。
怒りの感情が肝臓に蓄積していた方の話
体の働きの中で、体内に入った毒素の分解、胆汁(消化液)の作成、エネルギーの貯蔵などを担う肝臓は、怒りの感情を蓄積する臓器と言われています。内臓と感情の関係を考えた時、臨床の中で強く印象に残っている方がいます。なぜ印象に残っているのか。それは、その方の問題を最終的に解決する事ができなかったからです。もう5年以上前の話になりますが、今でも鮮明に覚えています。
その方は40代の女性の方で、礼儀正しく、落ち着きのある方でした。実際の年齢よりも10才ほど若く見え、端正な容姿をされていました。その方の主な体の不調は、肩こり(右肩に強い)、緊張性頭痛、腹部の膨満感(腹部が膨らんでお腹が張っている)があり、オステオパシーの施術を受けにきました。
全身を触診で検査した所、肝臓周囲の筋膜の固着が強くあり、週一回の頻度で肝臓に関わる筋膜、背骨、頭蓋などの調整を行い、3回目の施術で全ての症状に改善が見られました。しかし、その一か月後に来たその女性は、最初に出会った時と同じ症状を訴え、肝臓周囲の筋膜が固着している体の状態に戻っていました。私は「何かに怒りの感情はありませんか?」と尋ねました。その女性は「ある」と答え、仕事の話をしてくれました。
彼女の仕事は、インフォメーションスタッフ(デパートなどの)を指導をすることで、主に20代前半の若い世代への指導に当たっているそうです。自分の指導した通りに業務を行えない事に怒りを感じていると言ってました。「その怒りを表現していますか?」と聞きました。彼女は「怒りを伝えることはしません。自分の中に留めておきます」と言っていました。私は、自分の中に溜め込んでいる怒りの感情が、肝臓に関わる筋膜を緊張させ、症状を作りだしている可能性がある。可能な範囲で怒りを表現することが必要である事をと伝えました。彼女は「やってみます」と答えました。
しかし、次回会った彼女は表情を硬くし「できません。怒りを外に出す事ができません」と言っていました。オステオパシーの施術を行いながら、彼女が怒りの表出を行えるように援助しましたが、彼女にとって怒りを表に出すことは困難な事でした。オステパシーの施術後には症状は改善するものの、仕事の機会があると再発する事を繰り返しました。オステパシーの施術だけでは、症状の改善が難しいと感じた私は、一度カウンセリングを受けてみる事を提案しました。彼女は少し躊躇しているようにも見えましたが「知り合いにカウンセラーがいるので、相談してみる」と言い、部屋から出ていった彼女とその後、会うことはありませんでした。
おわりに
オステオパシーの創始者、アンドリュー・テイラー・スティルは以下の言葉を残しています。
「健康は、人間という生命体が持つ自然の能力を基礎としている。その能力によって、人間はその生活環境における有害な影響に抵抗している。そのような有害な環境が与える効果を代償することが出来る。」
アンドリュー・テイラー・スティル
アンドリュー・テイラー・スティルを始め、オステオパシーの先人達は、身体の施術から入り、心の在り方にも変化を与えることをしていました。当時の私は、それが出来なかった。より深く、心身にインパクトを与える施術が出来ていたなら、5年前、問題を解決する事ができなかった女性への施術の結果は変わっていたと思います。一人の人にオステパシーを施す時、そこに心を伴うからこそ奥深さがあり、施術の学びには終わりがないのかもしれません。
感情は単純なものではなく、単に怒りの感情というより、怒りと悲しみが混合している感情があったり、怒りの感情を辿ると元には不安の感情があったりと、感情の状態はとても複雑なものだと思います。ジャン・ピエール・バラル著『体からのシグナル』には、内臓と感情との関連が詳細に書かれています。心と体の繋がりに興味がある方はぜひ読んでみて下さい。
体からのシグナル~体と心が発する信号を正しく理解して最高の健康を手に入れる~
この記事を書いた施術者
関屋オステオパシー 代表
関屋 淳 (sekiya jun)
【施術実績 (累計)】
理学療法士としてリハビリを1万人以上
オステオパシーの施術を2000人以上
2児の父として子育て奮闘中
案内動画はこちら
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