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目次
はじめに
オステオパシーは、まだまだ日本で広く認知されているとは言えず、多くの方に知って頂けていない現状かと思います。この記事ではオステオパシーの歴史や語源、資格、技術(テクニック)、施術者が診ている体の世界などオステオパシーの全体象をご紹介させ頂いて、少しでもオステオパシーの魅力を感じて頂けたら幸いです。
オステオパシーの歴史と広がり
オステオパシー(osteopathy)とは、1874年にアンドリュー・テイラー・スティル(以下、A.T.スティル)というアメリカ人によって創始された医学体系であり、手技療法です。
A.T.スティル博士は、医師(内科・外科医)でありながら当時流行していた脳脊髄膜炎により3人の子供と自分の父親を失くしました。 そして当時、手厚い医療を受けていたのにも関わらず命を落とす人がいる一方で、貧しいがために医療を受ける事ができなかった人が脳脊髄膜炎から回復していく事実を目にし、自分が行っている医学に疑問を抱きます。
A.T.スティルは、解剖学、生理学、病理学などの医学知識に加えて自然科学をひも解き、人体や人間に対するあらゆる視点からの研究を独自に始めます。そして、10年後の1874年6月22日、以下の4つの原則と共に、手技により人間が本来持つ自然治癒力を高める「オステオパシー」を発表します。
①身体は一つのユニットである。一人の人間とは、身体、心、及び精神の単位である
②構造と機能は相互に関係している
③身体は自己調節、自己治癒、健康維持能力を備えている
④オステオパシーの合理的な治療には以上3つの原則に基づいて行われる
※オステオパシーにおける4つの原則の詳細は「オステオパシーとは?」のページにまとめています。
A.T.スティルが「オステオパシー」を治療法として発表した当初、アメリカ医学界からの反発にあい、オステオパシーの存在は受け入れられませんでした。そのような中にあっても、A.T.スティルは、自分の信念の元でオステオパシーの施術をして全米を周り、次第にその治療効果が人から人へ口伝で伝わり、少しずつ人々から認められていきました。
1892年には、アメリカのミズーリ州カークスビル(Kirksville)に、オステオパシーの最初の学校であるアメリカン・スクール・オブ・オステオパシーを設立、1910年にはオステオパシーが医学として公認されるに至ります。現在では、全米に多くのオステオパシー医科大学(28校)があり、イタリア、イギリス、カナダなどの欧米でもオステオパシーの教育機関が設立され、世界的な広がりを見せています。
『オステオパスは症状を扱うのではなく、原因を扱わなければならない。症状は、原因が調整されれば消失する』
A.T.スティル
オステオパシーの語源
オステオパシー(Osteopathy)の語源は、ギリシャ語のosteon(オステオン:「骨」を意味する)とpathos(パソス:「病・療法」を意味する)という2つの言葉から作られた造語です。英語訳で「骨の性質を利用した施術法」や「整骨療法」と訳す事が出来ますが、osteon(オステオン)は「骨」に加えて「生命体の構造」という意味を持ち、A・T スティルが言った「生命体の構造」とは、全身の器官(骨だけではなく、筋肉、内臓、神経、血管、リンパなど)と、また全ての器官を一つに繋げる筋膜(Fascia)の事であると考えられています。
この「osteon」に対する解釈の違いから、オステパシーの広がりに違いが生まれ、「osteon」を英語訳したイギリスのオステオパスは構造を「骨」と捉え、オステオパシーを骨・関節を中心に考え、アメリカやフランスでは構造=「筋膜」と捉え、筋膜の連続性を根幹となる考え方として施術を行う傾向にあるとも言われています。
発祥の国アメリカでは「医師」が用いる徒手技術
オステオパシーが発祥したアメリカでは、オステオパシーの施術者は、D.O.(Doctor of Osteopathy)と呼ばれる正規の「医師」です。アメリカ全州で「医師免許」の使用を認可され、一般の西洋医学の医師と同等の医療行為(診断や手術、薬処方・投薬)が認められています。
アメリカ以外でも、オーストラリア、イギリス、フランス、ベルギー、ニュージーランドでは、オステオパシーの施術をするにあたっての法的な資格(医師とは限らない)が整備されています。
日本におけるオステオパシーの現状
オステオパシーが日本に入ってきたのは、明治の終わり(1910年前後)と言われています。(1920年に発行された「山田式整体術講義録」という書籍で、オステオパシーの名前が初めて書籍の中で紹介されました。)
日本でのオステオパシーは、カイロプラクティックと同様に整体の一つとして捉えられる事が多く、オステオパシーに関する民間資格はあるものの、法的な国家資格は存在していません。そのため保険内での施術は行えず、多くの方に知って頂きにくい要因の一つになっていると考えられます。
西洋医学的な知識(解剖学、生理学、病理学)に加えて、よりホリスティック(全体性)に人間を捉える手技、オステオパシーが日本でも広まっていく事を切に願っています。
オステオパシーには多くの技術(テクニック)がある
アンドリュー・テイラー・スティルの逸話
オステオパシーの創始者A.T.スティルが創設したアメリカン・スクール・オブ・オステオパシーの生徒の一人が「オステオパシーを上達していくためには何を勉強したら良いのでしょうか?」とA.T.スティルに質問した所、『1に解剖学、2に解剖学、3に解剖学』と答えた。という逸話が残っています。
また、オステオパシーを単なる徒手技術としてではなく、一つの哲学(考え方)として捉えていたA.T.スティルは、自らが行っていた矯正技術を生徒に伝えることをしませんでした。(実際に、A.T.スティルが行っていたとされている技術は文献としてほとんど残っていません。)オステオパシーにおける4つの原則にのっとり、解剖学・生理学を熟知し、人の体を適切に診ることができれば、行う技術は勝手に決まってくると考えていました。
そのため、オステオパシーには数多くの技術が生まれ、今もなお研究され続けています。
オステオパシーの施術方法
筋骨格系のオステオパシー
根幹となる骨盤や脊柱だけではなく、それを下から支え土台となっている下肢(脚)や、左右で計56個の骨からなる足部の細かい関節まで、体全身の状態を診ていきます。また循環器系を保護する胸郭の状態もとても大切です。上肢(腕)との関連が強いので併せて診ていきます。「腰痛だから脊柱を矯正する」とは考えず、体の調和を乱し、自然治癒力を低下させている体の部位を全身から調べ、調整していきます。
頭蓋領域のオステオパシー
オステオパシーでは、頭蓋骨も体の一部として診ているので施術対象のひとつです。頭蓋骨は28個の骨からなり、それぞれの骨の間には微小な可動性があります。骨同士の可動性や頭蓋骨内にある膜組織の柔軟性、脳や神経を栄養する脳脊髄液の流れを改善する方法がオステオパシーには存在しています。(頭蓋骨の中にある脳を調整する技術も昨今研究が進んでいます)頭蓋骨の調整をすることで、全身の神経系を栄養し、その感度を適切に保つ作用があります。
頭蓋領域のオステオパシーには、頭蓋仙骨療法(CST)、バイオダイナミクス、クラニオセイクラル・バイオダイナミクスなど様々な流派があります。
リンパ・血管系のオステオパシー
滞っていたリンパや静脈の流れを高めることは、老廃物を体外へと排出させる作用や免疫力を高める作用あります。また痛みや腫れなど炎症症状を抑えることにつながります。脈管系や血管系の循環の改善は、心臓の働きを助けることになり体全体の生命力を底上げします。
それ以外にも、カウンター・ストレイン、筋肉エネルギーテクニック、筋膜リリース、メカニカル・リンク、靭帯性関節性ストレイン、内臓マニピュレーション(内臓調整)、スティル・テクニック、直接法(ダイレクト・テクニック)、間接法(インダイレクト・テクニック)、ファンクショナルテクニック、HVLA(高速低振幅テクニック)、頭蓋仙骨療法(CST)など数多くの技術があります。
オステオパシーの可能性
「いのちの輝き」の著者で、伝説のオステオパシー医と呼ばれているロバート・フルフォード博士は著書の中でこのように言っています。
身体はエネルギーが複雑に流動し、それにより機能し、構成されている。そのエネルギーがブロックされたり、失われたりするから肉体的・感情的・精神的活力を失っていく。この状態が続くと、痛み・不快・病気・精神的な病という結果を生じる。
ロバート・フルフォード著「いのちの輝き」
オステオパシーは解剖的・生理学的に体の全体性を診る医学ですが、『体の全体性』の解釈を広げ、体の内外にあるエネルギー場の状態が、肉体や精神に影響を与えるとロバート・フルフォード博士は説き、当時治癒は不可能であると言われていた数多く病を治したと言われています。
私自身、オステオパシー界の第一人者であるグリーンハウス田尻先生のセミナーに通った数年間の中で、エネルギー場に変化を与えることで、体の柔軟性の変化や痛みなど症状が改善・消失する事を幾度となく体験し、実際の施術場面でも変化を目の当たりにしてきました。実際に、オステオパシーの方法論の一つであるバイオダイナミクスでは、東洋医学の経絡やインド哲学のチャクラを考慮して施術を行っていきます。今後『体の全体性』を捉える視点がより高く広くなり、オステオパシーは発展していくと思います。
オステオパシーの発展とともに、今現在、治癒に至らず辛い思いをしている方の力になれるかもしれない。オステオパシーの可能性を感じています。
日本のオステオパシー団体
日本でも多くのオステオパシー団体があり、セミナーや提携の学校でオステオパシーの哲学や技術を学ぶ事ができます。(多くの場合、医療系の資格を持っている事がセミナーを受ける条件となります。)
日本のオステパシー団体の一例
- 日本オステオパシー連合(JOF)
- 全日本オステオパシー協会(AJOA)
- 日本オステオパシー学会(JOA)
- 日本オステオパシーメディスン協会(JOMA)
- 日本オステオパシープロフェッショナル協会(JOPA)
- 日本クラシカルオステオパシー協会 (JACO)
- 日本クラシカルオステオパシー学会(JICO)
※私の知っている範囲での一例になります。特に関東圏外にはオステオパシー団体が他にも幾つもあるかと思いますのでご興味のある方は検索してみて下さい。
施術者によるオステオパシーの違い
上記の通り、オステオパシーの徒手技術(テクニック)には、強い力をかけていく技術から、受ける側からは触れらているくらいに感じる圧力で行う方法まで幅があります(私はどちらかと言えば後者です)。もちろん、施術を受ける方の体の状態に合わせてテクニックを選択するわけですが、施術者によってオステオパシーを受けた感覚が大きく異なっているのも事実だと思います。(学んできた背景が違う二人のオステオパシーの施術者に施術を受けた場合、全く違う治療法に感じるかもしれません)
一言で「オステオパシー」と言っても、施術の方法論や選択するテクニックにはそれぞれの施術者で違いがあるので、オステオパシー院を選ぶ際には、学んできた環境や背景(学んでいるオステオパシー団体)をHPなどで調べる事が一つの選択基準になるのではないかとかと思います。
オステオパシーで診ている体の世界
数多くあるオステオパシーの手技の中で、当院では「バイオダイナミクス」という方法論を中心に施術にあたっています。とても穏やかな圧で施術していくため「触れているだけなのに身体が変わるのが不思議」との感想を頂くことが度々あります。
そのように一見、触れているだけのようにも見えるオステオパシーの施術で、施術者は体の何を感じ、診ているのか?オステオパシーの触診で診ている体の世界をご紹介したいと思います。
筋膜(ファシア)の動き
オステオパシーで特徴的な体の診方として、全身を覆う筋膜の伝わりから身体の状態を読み取っていく「傾聴」という検査の方法があります(オステオパシーで考える筋膜は、単に筋肉だけを覆うわけではなく、骨・内臓・血管・神経など人体の全ての器官を個別に覆い、またそれらを一つに繋げている膜組織:ファシアの事を指しています)
具体的には、頭や脚、腹部に軽く手の平で触れ、何かしらの問題が生じて筋膜が集約しているポイントや癒着、施術するべき体の部位を探していきます。
『筋膜(ファシア)の重要性とその役割』については、記事の終盤でまとめています。
関節の可動性
オステオパシーでは、関節の屈伸運動のようなダイナミックな動きに加えて、より細かい関節の動きにも目を向けています。微細にその関節を動かした時、周囲の靭帯や筋肉、筋膜とのバランスや整合性がどうなっているか?という事を診ていきます。
また股関節や肩関節などの大きな関節だけではなく、手部や足部の小さい関節の動きの悪さが全身に強い影響を与えている事も多々あるので、オステオパシーでは頭からつま先まで全身の関節に動きがある事を大切にしています。
体液の流れ(血液・リンパ・脳脊髄液)
洋の東西を問わず、様々な療法で考えられているように、オステオパシーにおいても血液を含む体液の循環を大切にして人の体を診ています。体液が豊かに流れている方は、オステオパシーによる施術に体が良く反応し、症状の改善が早い傾向にあります。反対に、回復に時間がかかる方は、総じて血液の流れが弱く、乏しい印象を受けます。
体液とは・・・血液、リンパ液、脳脊髄液など、体の中にある全ての液体のこと
特に血液に関して、A.T.スティルは『体に内在する医師』と呼び、重要視していました。
「血液には薬になる天然の物質が含まれている」
A.T.スティル
「身体を治しているのは血液である。血液の中には出血を止めたり、外部から入った毒素を死滅させたり、身体を補修したり、余分に出来た繊維を溶かす物質も含まれている。この血液を身体中にくまなく巡らせるようにし、身体が自分を治すように仕向ける事をするのがオステオパシーの仕事である。」
A.T.スティル
動脈が運ぶのは、酸素や栄養分だけではなく、白血球やホルモン、出血を止める血小板、免疫に関わる物質を、必要としている体の部位に適切に送り届けています。この動脈の働きがあるからこそ、ウイルスや細菌から体を護り、環境の変化に対応して体の状態を一定に保つことができます。
体液の循環を滞らせている体の歪みや硬さ、緊張を傾聴により探し出し、その部位を解放し、そして身体中にくまなく体液が巡るようにする事がオステオパシーの大きな役割の一つです。
内臓の状態
筋膜(膜組織:Facia)が全身を一つに繋げている事により、一つの内臓の状態が全身に影響を与えている事は珍しいことではありません。肝臓、胃、膵臓、腎臓、心臓など全ての内臓には、それぞれ特徴ある動きがあります(「自動力」と言います)。自動力や内臓の緊張や歪み、委縮、冷え、疲弊している感じなどを感じ取り、その内臓の状態を把握します。
オステオパシーで行う内臓調整は、内臓自体というよりも、その内臓の周りにあるFacia(筋膜)に働きかけ、内臓の柔軟性や位置を整え、他の器官(例えば周囲の内臓や背骨、脳)と協調して機能できるように調整していくので、強い力をかけないで行う優しい手技です。
内臓と筋肉の関係
内臓も筋肉も脊髄から出ている神経からの指令により動き、働きをコントロールされています。例えば肝臓において、肝臓の働きをコントロールしている神経と、右肩周辺の筋肉に指令を出している神経の脊髄レベルに重なりがあるので、神経系を通して肝臓と右肩周辺の筋肉がお互いに影響を与え合っています。これを内臓ー体性反射(体性ー内臓反射)と呼びます。そのため、臨床上よく見られるパターンとして、肝臓の問題が右の肩こり(右僧帽筋の緊張)として現れる事があり、肝臓以外でも心臓の問題が左の肩こり(左僧帽筋の緊張)、腎臓の問題は腰痛が膝の痛みの原因となっている事があります。
内臓と感情
オステオパシー内蔵調整(内臓マニピュレーションと呼びます)の創始者ジャン・ピエール・バラルは、患者さんの内臓の状態とその方の感情を観察・研究し、感情記憶が内臓に蓄積されることを説いています。実際の臨床においても、現在や過去に抱いた感情が内臓の周りの筋膜に蓄積され、症状を引き起こす原因になっていると考えられる事が度々あります。
内臓と蓄積される感情の一例
- 肝臓・胆のう=怒り
- 肺・大腸=悲しみ
- 心臓=不安
- 腎臓・膀胱=恐れ
- 膵臓=生存に関わる恐怖
脳脊髄液の波動【一次呼吸(第一次呼吸メカニズム)】
※「呼吸」という名称がついていますが、一般的な呼吸(肺呼吸)とは異なるものです。脳脊髄液の循環により体全体に起こるリズミカルな動きの事を『一次呼吸』と呼びます。
オステオパシーにおける2つの呼吸メカニズム
- 第一次呼吸メカニズム(一次呼吸) = 脳脊髄液の波動
- 第二次呼吸メカニズム = 肺呼吸
オステオパシーと他の徒手療法との大きな違いの一つは、「脳脊髄液」の流れに着眼している点だと思います。名称の通り、中枢神経系(脳・脊髄)を栄養し発達させる、生命活動を支える重要な体液です。
脳の中にある「脳室」と言われる空間で作られた脳脊髄液は、脊髄を通り、腕や脚にある神経の一本一本を栄養し、再び脳内に戻り吸収されるように循環していると言われています。
一次呼吸の動きは「膨張と収縮」と表現され、体が「横に開いたり、閉じたり」「縦に伸びたり、縮んだり」というような小さな動きで、体のあらゆる箇所に手で触れる事で感じ取る事ができます。一次呼吸に関して、まだ科学的には解明しきれていない点が多いですが、他の体液(血液やリンパ)の循環にも影響を及ぼしていると考えられています。
本来、規則的で一定のリズ厶で起きている一次呼吸ですが、大きな外傷や精神的な強いトラウマの体験、出生時の問題(バーストラウマ)など様々な要因で、一次呼吸に動きの減弱やリズムの不調和を引き起こす可能性があり、一次呼吸に問題がある事が要因となって体の不調が起きている事は決して珍しい事ではありません。
特に出生において、臍の尾が首に巻きついていたり、仮死状態での出生であったり、頭部に強い圧がかかる分娩(鉗子分娩や吸引分娩)であった事で、一次呼吸に著しい制限が作られてしまった場合、その後、生涯における健康面でのハンディを負う可能性があります。そのため、一次呼吸を正常なリズムに取り戻す新生児や乳幼児に対するオステオパシーは、熱心に取り組まれている分野の一つです。
直観的な感覚
直観は、施術を受ける方と施術者、二人の関係性の上で生じる不思議な力だと思います。伝説のオステオパスと呼ばれているロバート・フルフォード博士は『数え切れないほど多くのケースで、わたしは直観が大いに役立っていたことを痛感してきた。事実、直観はわたしがかくも多くの原因不明の病気を治すことができたことの、おもな理由である』と述べています。オステオパシーでは、直観を大切にしています。
手の感覚には限りがない
過去の偉大なオステオパスはこのような言葉を残しています。
「患者さんの体に触れた時、その組織が何故そのような状態になっているのか。物理的な外傷(事故など)が要因なのか、心理的なストレスか、過去のトラウマが関係しているのか、それとも他の要因が関係しているのか。手を通して感じとり、感じ取った上で施術しなければならない」
手で感じ取れる触診の感覚には限りがなく、高めていく事が出来ます。量子力学的に考えて、感じ取ることが出来る体の情報領域が広がれば、それだけ施術の効果が高くなるので、施術者として「感覚」を高める事に常に注力していく必要があると思っています。また私にとってですが、その点において瞑想が大きな役割を果たしていると感じています。
オステオパシーにおける筋膜(ファシア)の重要性とその役割
オステオパシーでは、Fascia(ファシア)と呼ばれる身体を1つにつなげる膜組織を大切にして、人の体を診ています。
Fasciaは、日本語訳では「筋膜」と訳されますが、実際には筋肉を覆うだけではなく、骨、内臓、神経、脳、血管、靭帯など身体を作るものは、全てが膜組織によって包まれ保護されています。(解剖学の本を開くと、骨を覆う骨膜、神経を覆う神経周膜、心臓を覆う心膜、肝臓に着く肝鎌状間膜など『膜』と名ついた身体の名称を多く目にすることができます。ミクロな視点では、細胞一つ一つも細胞膜という膜に包まれています。)
筋肉と筋肉、骨格と内臓など、隣り合う構造は膜組織により結びつき、それぞれが連続しています。体全体で見ると、頭からつま先まで、膜組織が立体的な編み目を作るように全身に張り巡らされ、身体を一つにつなげています。
膜がねじれたら・・・
布の一か所に、ねじりの力を加えた写真です。ねじれの力が周囲にも及んでいることが分かります。皮膚の下では、膜組織のシートが何層にも重なりあうような構造をしているので、人の体にも写真と同じ現象が起こります。身体の一か所に引っ張る力や、ねじれ、緊張が起こると、遠く離れた場所にまで影響を及ぼすことになります。これを体感する簡単な実験があります。良ければ行ってみて下さい☆
①着ている服のお腹辺りを片方の手で下に引っ張り、もう片方の腕を真上に挙げる。
②ズボンの裾を強くねじった状態でしゃがむ。
①では腕が挙がりずらくなり②ではしゃがめない、もしくはズボンの裾をねじっていない側の脚と比べて脚の曲がりが悪くなったと思います。
このような現象を考えると、肩が上がらない事や正座が出来ない事の原因が、肩や膝の関節にあるだけではなく、そこから遠く離れた膜組織に、ねじりや歪み、緊張などの制限が起きている可能性が考えられます。
この膜組織の状態を、関節、筋肉、血管、神経、内臓などの触診により把握し、正常な状態することがオステオパシーの仕事の1つです。
筋膜の様々な役割と性質
「体を一つにつなげる」以外にも、筋膜は様々な役割と性質を持っています。
体を支える「第2の骨格」
肝臓は成人男性で約1.5kg、女性で約1.3kgの重さがあると言われています。立っている状態で、その重さのあるものが下に落ちないのは、肝臓を包む膜組織が周囲の内臓と連結し、骨格につながり支えているためです。この体を支える筋膜の性質から骨・関節に次ぐ『第2の骨格』とも呼ばれています。
常に体にかかっている重力に対応して、姿勢を保つことができるのは、筋膜が適切に働き、内臓だけでなく、あらゆる器官を支えることができているからです。筋膜に歪みや緊張があると(例えば肝臓を支えられず)、それに応じた姿勢をとることになります。
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テンセグリティ構造
「テンセグリティ構造」とは、タワーやドーム型の大きな建築物から、身近な物であればアウトドアで使うテントに応用される、張力により構造を安定させる考え方です。ビルの様な通常の構造物とは異なり、部材同士に接点がなく、張力で統合されています。
テンセグリティ(tensegrity)とは、バックミンスター・フラーにより提唱された概念で、Tension(張力)とIntegrity(統合)の造語。実際はケネス・スネルソンが彫刻として取り組んでいた引張材と圧縮材からなるオブジェに対し、テンセグリティなる造語を発案し、これを自ら用いたのがバックミンスター・フラーであった。
ウィキペディア(Wikipedia)より引用
テンセグリティは建築学上の言葉ですが、水分子、タンパク質、ウイルス、細胞、筋膜など自然界や人間の体の中には、テンセグリティ構造で作られている物が多く存在しています。体を支える筋膜の性質を考えた時、テンセグリティを視覚的に捉えると理解しやすいので、ストローと輪ゴムで模型を一つ作成してみました。
模型のように、黒いストローはそれぞれが接触してはいませんが、緑の輪ゴムが引っ張り合う張力のバランスによって支えられ、立体を保持しています。全身に張り巡らされた筋膜は、模型の輪ゴムと同じように人体に張力を与え、体を支え安定させる役割を果たしています。
衝撃を吸収・分散する
テンセグリティ模型の一点に対して指で圧を加えた所、指で触れている部分だけではなく、模型全体がたわみながら、形を変えていく事が見て取れます。
この現象に関して、書籍アナトミー・トレインには以下のように書かれています。
テンセグリティー構造の一角に過重をかけると、構造全体は、それに適合するために少したわむ。過重をかけ過ぎると最後は構造物が破壊されるが、必ずしもそれは荷重が加えられた近くとは限らない。構造物は、張力線を通ってひずみを構造物全体に分散させるので、テンセグリティー構造はひずみが加えられた領域から少し離れた所にある弱点でたわむ。
アナトミー・トレイン : 徒手運動療法のための筋筋膜経線
衝撃を吸収・分散する筋膜の役割は、特に外傷時に大きな意味を持ちます。交通事故、転倒、捻挫、打撲などで体のどこかに外傷を受けた時、衝撃を吸収し、その力を身体全体に分散させるように筋膜が働くことで、組織の損傷を最小限に抑える事ができます。転倒した時、必ずと言ってよい程に骨折する方がいる一方で、頻繁に転倒するにも関わらず、全く骨折しない方がいます。筋膜が正常に働けるよう整えておくことで、転倒したとしても大事に至らずに経過する可能性があります。
動くために、滑りを作る
例えば、座った状態で体を前にかがめ背中を丸めた時、背骨が曲がるのに合わせて腹部にある内臓(小腸、胃など)は、滑り合いながら形や位置を変えています。もし腹部にある内臓が一塊になり、形や位置を変えなければ、背骨を曲げることは少しもできないはずです。
もう1つ例を挙げます。腕を真上に挙げる時、肩の関節と共に肩甲骨が動き、肩甲骨の下にある肋骨も形を変えていきます。肋骨の形を変えるためには、肋骨の中にある肺や心臓が滑り合う必要があります。もし、過去に肺炎を患った既往があれば、肺や心臓での滑り合いがスムーズに出来なくなるので、結果として腕を100パーセント挙げることは出来なくなると考えられます。
このように、体のどの動きを行う場合でも、関節、筋肉、内臓、神経など身体を作る全てが膜を通して滑り合い、形や位置を変えることで最大限の可動性を生むことができます。
周りの構造と隔てる
筋膜には、つながりを作る役割がありますが、同時に周囲と隔たりを作っています。例えば筋肉が細菌に感染した場合、感染が周囲に拡がらないように防ぐ働きがあります。
また、筋膜によって作られた隔たりは、神経・血管・リンパが体の中を循環するための通路となります。
記憶する
人体の中で記憶を司っているのは脳ですが、筋膜ではより潜在的な無意識レベルでの記憶を保持しています。例えば、スポーツにおいて「頭よりも体が先に動いた」そんな経験をした事があるかもしれません。日々の反復練習により、筋膜が動きのパターンを記憶することで、より高いパフォーマンスが可能になります。
その反面、現在に至るまでに体や心にかかった様々なストレスは筋膜に記憶され、ねじれや固着を引き起こす。そのような側面も筋膜は持ち合わせています。
- 身体的外傷の記憶
例えば、過去に遭った交通事故やスポーツ時の捻挫、骨折など身体的外傷は、時間の経過と共に痛みや動きの障害がなくなったとしても、外傷時にかかった力は筋膜や骨膜に記憶され、膜組織の固着や歪みとして体に残ります。またオステオパシーでは、外科的な手術も身体的な外傷として捉え、手術で切った筋膜をリリースする方法が存在します。
- 感情を記憶する
内臓マニピュレーションの創始者ジャンピエールバラルは、患者さんの内臓の状態とその方の感情を観察・研究し、感情記憶が内臓に蓄積されることを説いています。(怒り=肝臓・胆のう、悲しみ=肺・大腸、恐れ=腎臓・膀胱など)臨床的にも内臓オステオパシーを施すことで、内臓の膜組織が調整されるのと共に蓄積されていた感情が、一緒に解放されることがあります。また肺や心臓を覆っている肋骨や胸骨(胸の中心にある骨)も、感情的なエリアと言われ、感情の記憶が蓄積されると骨自体が硬くなっていきます。
- 精神的な記憶
これは私の臨床上での私見です。精神的な記憶とは、よりその人の本質に関わるネガティブな記憶を意味しています。精神的な記憶は、脳や脊髄を覆う硬膜に記憶され、脳神経系に強く影響を及ぼしてしまうのではないか。と考えています。
折りたたまれる筋膜
筋膜は、最も表面にある皮膚と奥深くに位置する骨との間で、何層にも複雑に折りたたまれるように存在し、その中に筋肉、内臓、神経、脳、血管、靭帯など身体を作るもの全てを収納しています。『閃めく経絡』の著者であるダニエル・キーオン氏は、著書の中で筋膜のその複雑かつ立体的な在りようについてユニークな例えを述べていました。
最初、ファシア面は単純なものだったが、急速に折り紙のようになっていく。折り紙は単純な状態から始まり、どんどん複雑な形になって終わる。出発点は1つの面、裏と表を持つ紙である。単純にこの面を折り重ねることによって、白鳥、象、飛行機、紙のヒトなんかも作ってしまう。折り紙は1つの面とたくさんの折りたたみからなる。身体には中間の層があり、さらに複雑になっているが、折り紙の原理「つながり続けなければならない」は保たれている。これらのつながりは、(三次元において)3つの単純な層として、大人になっても継続する。
ダニエル・キーオン著『閃めく経絡』
筋膜により体を読み取っていく
このように筋膜には様々な役割や性質があります。多くの役割を担っているからこそ、様々な身体的・精神的ストレスの影響を受け、ねじれや歪み、固着などの変化が起きるとも考えられます。
この筋膜の状態やつながりを触診によって読み取っていく事がオステオパシーの一つの醍醐味です。なぜ症状が引き起こされ、改善するためには何が必要なのか。筋膜は、その人を知り、症状を解決へ導いてくれるガイドだと思っています。
筋膜は病気の原因を探すべき場所であって、治療の行動を始めるべき場所である
A.T.スティル
カイロプラクティックとオステオパシー
カイロプラクティック、オステオパシー、それに加えてスポンディロセラピー(現在、スポンディロセラピーそのものは衰退)の3つは、アメリカ三大手技療法と言われています。
カイロプラクティックとオステオパシーは、カイロプラクティックが「背骨のゆがみ」を中心にして身体を診ていく事に対して、オステオパシーは「身体全体を一つのユニット」として施術していく点で比較対称される事が多いですが、オステオパシーの中にも背骨で一番問題となっている一か所に対して矯正(アジャスト)をかける方法論はありますし、カイロプラクティックの勉強会でも背骨だけでなく、頭蓋や四肢に対する技術を教える事を目にするようになりました。両者の垣根が薄くなってきている印象を受けています。
2つとも19世紀後半から20世紀前半に、偶然にも同じ国アメリカで始まった手技療法です。お互いの素晴らしい部分を吸収しながら、自然療法の一つの側面として発展していく事を願います。(個人的には、オステオパシーがカイロプラクティックのように多くの方に認知して頂けるように活動していきたいと思っています)
オステオパシーの偉人達が残した言葉
最後に、創始者アンドリュー・テイラー・スティルを始め、オステオパシーの先人たちが残した自然治癒や健康に関わる言葉をいくつかご紹介したいと思います。哲学的・抽象的なものが多いため、その真意は、身体やオステオパシーへの深い洞察がなければ理解し難しいものがありますが、その方の状況に応じて感じるものに違いがあると思います。ぜひ読んでみて下さい。
「健全をさがしなさい。病気は誰にでもみつけられる。」
A.T.スティル
「全ての血管には、血液を供給するための力が働いている。血管を適切に扱わなければ治療は成功しない。血液を全身に供給するため心臓には、大きな負荷がかかっているのだ。」
A.T.スティル
「自然には必要な治療薬の全てが存在している。」
A.T.スティル
「全ての臓器は協調して働いており、与えられたその役割を完璧に果たし、健康をもたらすよう作られている。これには、全て秩序だっていて、さらに充分なな栄養と休養、そして人生の楽しみを得ることによって、正しく機能するのである。」
A.T.スティル
「想念は物質である」
ロバート・C・フルフォード
「長生きする鳥や動物たちは全て、ごく少量の食物だけで生き延びている。人々もこれに従い、胸部や腹部の血管を通らないほどの量の食べ物や飲み物を摂取すべきではない。食事を簡素に済ますことができれば、健康と強さを手にすることができる。」
A.T.スティル
「オステオパスがもし結論することがあるとするならば、それは秩序と健全は切り離せないという事だ。」
A.T.スティル
「健康は、人間という生命体が持つ自然の能力を基礎としている。その能力によって、人間はその生活環境における有害な影響に抵抗している。そのような有害な環境が与える効果を代償することが出来る。」
A.T.スティル
この記事を書いた施術者
関屋オステオパシー 代表
関屋 淳 (sekiya jun)
【施術実績 (累計)】
理学療法士としてリハビリを1万人以上
オステオパシーの施術を2000人以上
2児の父として子育て奮闘中
案内動画はこちら
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