自分でできる整体法

呼吸法で横隔膜の働きを大きくする(腹式呼吸・逆腹式呼吸)

お知らせ

はじめに

先日のクラニオセイクラル・バイオダイナミクスのセッションを受けた後から、呼吸が深くなり、力むことなく行えていることを感じています。
呼吸の質が良くなると、体全身が軽くなり、脚に入っていた無駄な力が抜け(地に足がついた感覚もあります)、精神的に落ち着くことを実感し、呼吸の大切さを再確認しました。体に変化があって初めて、今まで充分な呼吸が出来ていなかったことに気づきました。
呼吸の主な役割は、酸素と二酸化炭素のガス交換ですが、それ以外にも血液循環を助ける、体幹機能を高める、自律神経を整えるなど、副次的に様々な影響を体に与えています。また、1日に行う呼吸数は約2〜3万回にも及ぶので、1回の呼吸の質が良くなることでの体への恩恵は、とても大きいものだと思います。
質の良い呼吸をする意義に関して、解剖学的・生理学的に改めて考え、またそのためのトレーニングとしての、横隔膜の動きを大きくする呼吸法をご紹介したと思います。

呼吸時の横隔膜の動き

呼吸とは「肺で行われる酸素と二酸化炭素の交換」のことですが、実はその動きを作り出しているのは肺自体ではなく、筋肉です。主に肋骨と肋骨の間にある肋間筋と横隔膜(おうかくまく)という筋肉が働き、息を吸った時に胸郭(肋骨など胸のレベルの骨格)のスペースを広げる事で肺に空気が入り、息を吐く時には横隔膜が元の位置に戻る事で、肺から風船がしぼむように空気が外に出ていく。そのようなメカニズムで呼吸が行われています。特に、横隔膜の働きが呼吸時に働く筋肉の7~8割を占めています。

  • 横隔膜は上の絵のように、みぞおちの高さにあり、ドーム状の形をしています。息を吸うときに下がり、息を吐く時に上に上がるように動きます。

深い呼吸をすることの意義

呼吸には、肺で酸素と二酸化炭素を交換をすること以外にも、解剖学的・生理学的に考えて様々な役割があり、深く質の良い呼吸をすることで、体に様々な効果が期待できます。

血液の循環を助ける

体の中で、血液を循環させるために大きな役割を担っているのが心臓です。心臓はポンプのように働き、血液を全身に送ります。また、全身にある筋肉も血液を循環させることを助けています。筋肉が収縮すると、筋肉の間を流れる静脈が流れ出して、心臓まで血液を戻してくれます。これを「静脈還流」といい、ふくらはぎが第二の心臓と呼ばれる所以です。しかし、寝ている時や座って休んでいる時、筋肉の働きは極わずかで、十分に血液を循環させる事はできません。そのために、もう一つ「静脈還流」を促す働きがあります。それが呼吸です。
横隔膜が上下に動き、体の中で圧力のバランスが変わることを利用して(気圧が高い所から低い所に流れるのと同じように)、血液が心臓に戻ることを助けています。
寝ても疲れが取れない、朝起きた時に腰が痛くなるなどの不調がある場合、呼吸が浅いことが一つ原因になっていることが考えられます。

細胞の呼吸

肺から取り込まれた酸素は、血液中に流れ、心臓の働きで全身に運ばれていきます。今度はその酸素を体全身にある細胞が取り込み、細胞は酸素を使用して生命に必要なエネルギーを作る、その過程で生じた二酸化炭素を細胞が血液の中に排出する、というような肺で行われる呼吸と同じような事が、全身の細胞レベルで行われています。
『全身の細胞レベルに働きかけている』と感じながら呼吸をしたなら、自分の体の見方が違ってくるかもしれません。

腹部や骨盤内にある内臓の柔軟性を高める

呼吸に伴う横隔膜の上下の動きは、胃や肝臓、小腸など横隔膜に近い内臓に刺激を与えます。もし深い呼吸が出来ていれば、その影響は骨盤にまで波及し、腹部や骨盤の中にある消化器、泌尿器、生殖器の柔軟性や機能を高めることにつながります。

横隔膜と大腰筋のつながり

体幹トレーニングやインナーマッスルの中で重要とされている筋肉の中に「大腰筋」という筋肉があります。大腰筋は筋肉の中で唯一、上半身と下半身をつなぎ、立ち姿勢(立位姿勢)を保つために、重力に抗う筋肉です。立位姿勢での運動や、姿勢の保持、歩行に大きく関わっています。リハビリの中でも、大腰筋が上手く働いていないために立っている姿勢を保つことが出来ずに姿勢が悪くなる、大腰筋が硬くなっているために腰痛がおきているなど、アプローチする機会が多い筋肉です。
解剖学的に診て、この大腰筋と横隔膜は筋膜で強く連結していて、お互いが影響を与え合っています。呼吸時の横隔膜の動きが大きければ、その都度、大腰筋に刺激が入り、大腰筋の柔軟性を保ち、働きを高める事が期待できます。深く質の良い呼吸をすることは、間接的に、体を支える体幹機能を高めることにつながります。

自律神経に働きかける

自律神経は呼吸・血液の循環・体温の調節・消化・排泄・生殖・免疫などの働きをコントロールしています。交換神経(活動している時に働く)と副交感神経(休んでる時に働く)に分かれ、お互いが状況に合わせて適切に働くことで、体内の環境を整えています。
自律神経は、基本的に無意識に働いています。例えば、意識的に心拍数を増やしたり、血圧を上げたり、食べ物を消化する時間を早めたりすることは出来ませんが唯一、呼吸だけは自分の意識下でコントロールすることが出来ます。
深く質の良い呼吸をすることは、自律神経の中心である脳幹(中脳、橋、延髄)に働きかけて、交換神経と副交感神経のバランスを整える作用があると言われています。

横隔膜の働きを大きくする呼吸法

上記の通り、深い呼吸をすることは、体の様々なシステムに働きかける大きな意味を持ちます。呼吸時に働く筋肉の中で、横隔膜の働きが全体の7~8割を占めているので、横隔膜の動きが大きくなればなるほど、一回の呼吸で肺に入る酸素の量が多くなり、呼吸の質は高まります。そのためのトレーニングとしての、横隔膜の働きを大きくする呼吸法をご紹介したいと思います。
日常生活の中で、呼吸に意識を向けることは多くはないと思います。意識的に横隔膜の働きを大きくする呼吸法を行うことで、日常生活で無意識に呼吸している中でも、深く質の高い呼吸が出来るような状態を目指します。

呼吸は大きく、胸式呼吸と腹式呼吸に分かれます。ほとんどの方は、どちらかの呼吸が優位になっていて、意識して行った時に得手、不得手があります。
本来なら両方の呼吸とも十分に行えることが理想的ですが、今まで呼吸法を指導してきた経験上、胸式呼吸よりも腹式呼吸の方がトレーニングとして行った時の効果は大きいです。(胸は肋骨などの骨格で覆われ、感情的な要素を記憶して硬くなっていることが多いので、瞑想やオステオパシーの手技の方が相性が良いのではないかと考えています)
自身で行うトレーニングとしては、腹式呼吸を使って横隔膜の動きを大きくしていくこと薦めます。方法としては一般的な腹式呼吸と大きな違いはありませんが、ポイントを抑えることで最大限の効果を発揮します。

  • ここで伝えている方法は、横隔膜の動きを鍛えるトレーニングとしてのものなので比較的強力です。高血圧の方や血圧が上がることが禁忌と考えられる場合は、必ず医療機関に一度ご相談の上で行って下さい。また、腹部の内臓に負荷がかかるので、食後数時間あけてから行うことをおすすめします。

腹式呼吸

①仰向けで寝ます。周りの空間は出来るだけ広くとります。

②脚は肩幅に開き、両手はお腹(下腹部)に置きます。

③まず、お腹を凹ましながら、息を吐いていきます。下腹部の上に置いた手で腹部を凹ましながら、「もう吐けない」という所まで息を吐きります。

④息を吐ききったら、お腹を膨らませるように息を吸っていきます。吸った空気が、臍の下の下腹部まで入っていくように意識しながら「もう吸えない」という所までお腹を膨らませていきます。この時、腰は自然と反るような形をとります。

③と④を繰り返します。

ポイント1 回数ではなく、一回の質を大切に。

一日に何回といった決まった回数はありません。一回の腹式呼吸で大きく横隔膜を動かす事が出来ていれば、一日に数回でも継続して行う事で効果はあります。量ではなく、質が大切です。

  • 自律神経が刺激されるので、強力に複数回行う場合には休憩を挟みながら行って下さい。

ポイント2 息を吐く事を優先する。

「呼吸」という言葉の順番通り、まず吐くことを大切にします。しっかり吐ければ、空気は勝手にお腹に入ってきます。「もう吐けない」という所まで息を吐ききることで、最大限の効果を発揮します。

ポイント3 体全身を使って、お腹に息を入れていく。

臍の下の下腹部にまで空気を入れていくと、自然と腰は反るような形になります。すると骨盤も連動して動き、骨盤が動くと脚も協調して動きがあります。下半身だけではなく、上半身も含めて全身を使う事で、最大限に深い腹式呼吸を行うことができます。お腹に息が入りやすい脚の開き具合、手の位置、あごの角度などは、個人差があるので、自分の体と対話し、様々なことを試しながら行ってみて下さい。

  • 立った姿勢でも行うことはできますが、円背姿勢であったり、腰骨に硬さがあって腰を反ることができなければ、横隔膜の動きを出すことは難しいので、最初は、仰向けで寝た姿勢が行いやすいと思います。

逆腹式呼吸

腹式呼吸が難しい場合、補助として行うことをすすめています。これを行った後、腹式呼吸が容易に行えることがあります。
腹式呼吸法とは逆に、息を吸った時にお腹を凹まし、吐いた時に膨らませます。(この時も「もう吐けない、吸えない」という所まで呼吸してください)
これは神経の作用を使い、横隔膜の緊張を解く方法です。専門用語では、Ib抑制(わんびーよくせい)と言います。

おわりに

「生きる」という言葉の語源は、「息をする」ことから来ているそうです。また「息」という字は、「自ら」という字に「心」と書きます。
息は、自分の心の状態を表し、また息の質を高める事で、心の状態を変える事が出来る。今回の記事を書いていて、呼吸する事が不思議と愛おしく感じました。
このような時だからこそ、安心して呼吸ができる場所では深い呼吸をする事が、体のためにも、心のためにも、とても大切なことだと思います。深い呼吸をするための一つの方法として、今回紹介した呼吸法を行って頂けたら幸いです。


この記事を書いた施術者

 

関屋オステオパシー 代表 
関屋 淳 (sekiya jun)
【施術実績 (累計)】
理学療法士としてリハビリを1万人以上
オステオパシーの施術を2000人以上
2児の父として子育て奮闘中
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施術者紹介

関屋淳

2011年より、理学療法士として総合病院に5年間勤務。その後、5年間訪問看護ステーションに勤務し、延べ10000回以上のリハビリを実施しています。その間、オステオパシーの施術を2000回以上実施しています。

『自分と患者さん両方の体と心を豊かに。そして、その豊かさが周囲の人たちに拡がっていくように』そのような施術を目指しています。

⇒ 詳しいプロフィールはこちら

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